小型仏壇 黒戸

小型仏壇 黒戸





気品ある深い漆黒の直方体に祀る

新しい祈りのかたちを提案するnanaplusの小型仏壇。
折戸を閉じると祈りの場と感じさせないシンプルな黒塗りの箱になります。重厚な蓋を開けた内部空間は、ウォルナットの台と自由壇のマグネット・システムにより自由にお祀りできます。遺品や骨壷が入る小さな収納庫付き。
精緻な木工、塗りと組み立て、ガラスはめ込み、ネオジム磁石の埋め込みなど、精度の高い製造が求められましたが、工程と手順をきちんと組み立てて安定した製造を行なっています。黒塗り、彫刻、蒔絵など、工芸品として相応しい装飾も手配しています。

Title小型仏壇 黒戸
Date2017.01
題目小型仏壇
技法木工、漆塗り、塗装、蒔絵、彫刻、プレス金具
素材ウォールナット、ヒバ、合板、漆、カシュー、ウレタン、金丸粉、ガラス、ネオジム磁石、銅板・黒ニッケル
サイズW375 D211 H228 mm
発注者自社開発
デザイナー乾 陽亮
撮影大野 博
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統合した伝統工芸の素材と技法

出来上がった木地(きじ)です。
木地とは、仏壇の土台となる、塗る前の状態のものです。
このようにバラバラの塗りやすい状態で全てを塗ります。ウォールナット(こげ茶色の無垢板)は、透明のウレタン塗装をしています。組み立ててから塗装すると細やかな部分を綺麗に塗ることができないため、先に塗ってから組み立てます。そうすることによって、接合部分につなぎ目の線が出ます。どこで接合すれば、目立たず違和感がないか、耐久性は保てるかなどを綿密にデザイナーと木地職人と私の三者で検討しています。


向って左側にある小物やお写真を入れる部分です。一度、木地の状態で仮組みをします。木地の状態で、パーツがきちんとそろっているか、寸法は合っているかの確認をします。
黒く塗装する部分は、割れたり反ったりがないようにシナ合板を使用しています。


塗装した状態です。小物入れの天井部分に、蓮の花が散っている様子「散蓮華(ちりれんげ)」という、お仏壇によく使われる図柄の蒔絵(まきえ)と彫刻が施されています。
蒔絵とは、漆で仕上げた面の上に、漆で絵や線を描き金・銀などの金属粉を蒔く技法であり、雅で華やかな雰囲気を醸し出します。
塗りは、外側が黒蝋色仕上げ内側がカシュー仕上げとなっています。
蝋色仕上げは、塗った漆を平坦に研ぎ、生漆を何度も摺リ込んで鏡面に仕上げ、磨くことで艶を出す、漆塗り最高級の技法とされています。
とても平滑で綺麗に塗りあがっています。塗りの職人は作業をしながら、まっすぐ綺麗にできているか蛍光灯を映してみて確認します。

  1. 木工

    木地は、製品の土台・フレームなどを作る最初の工程です。
    INOUEの木工の基本は、城下町彦根で江戸時代から続く伝統の金仏壇製造で培われた工芸品質です。
    彦根仏壇の木地は、日本建築と同じく釘を使わないホゾ組みを得意としています。材料を吟味し部材の切り出しから継手や面取りに至るまで、妥協のない品質で職人がひとつひとつ手作りする木地は、何世代にも受け継がれる仏壇を支えています。
    INOUEの製造ネットワークは量産が得意な他産地の木工所との繋がりもありますので、プロジェクトに適した木工で対応いたします。

  2. 漆塗り

    漆は非常に高品質で美しい塗装です。ウルシノキの樹液を採取し、ゴミや埃を濾した精製漆が塗装に用いられます。その成分に含まれるウルシオールが空気中の水分と結合し硬化する世界最強の保護塗料のひとつです。
    しかし漆は扱いが難しく、伝統技法で平滑に仕上げるには下地工程から高度な職人技が求められます。下地から上塗りまで何回も塗って研ぐ工程を繰り返して、塗り重ねます。中でも蝋色(ろいろ)仕上げは、漆の塗装面を平坦に研ぎ、生漆を摺リ込みながら何度も磨きあげ、鏡面で奥深い艶を出す漆塗り最高級の技法とされています。
    漆とひとくちに言っても下地の処理から仕上げの方法までさまざまな技法が発展しています。INOUEは仏壇製造で培った漆工への深い知見から、変わり塗り・色漆から最高級の蝋色まで、適した漆塗りの技法とその職人を提案しています。

  3. 蒔絵

    漆で絵や文様を描き、金粉などを蒔きつける漆芸技法を蒔絵(まきえ)と呼びます。広義では螺鈿や切金などを含んだ加飾を概ね蒔絵と呼ぶこともあり、金粉のみで表現したものを特に金蒔絵と呼んで区別することもあります。 蒔絵は日本で生まれ、独自に発展した日本のみに存在する伝統漆工芸技法です。平蒔絵や高蒔絵、さらに平蒔絵を一旦漆で埋め直し砥石や研炭などで蒔絵後の塗面を研ぎ出す研出蒔絵(とぎだしまきえ)など様々な技法が生まれました。さらに蒔き終えた金粉や銀粉の上に透き漆や色漆で塗り固め、研ぎ出して表現したり、金粉や銀粉等の号数による細かさなどの種類によって奥行きを表現したり、多彩な加工手法を駆使する事により表現の幅が時代と共に発展してきました。 また、安価な加工手法として、金粉を蒔いたままの「消し蒔絵」やシルクスクリーン印刷を応用した「スクリーン蒔絵」もあります。 INOUEでは様々な技法を持つ蒔絵職人のネットワークがあり、ご要望に適した技法を手配しております。

  4. 錺金具

    工芸に使われる金物のうち、装飾性に富む金工品を錺金具(かざりかなぐ)と呼びます。使われる場所や目的に合わせて、銅や真鍮などの金属を使い、立体的な形に彫る地彫(ぢぼり)や、細かな線を彫り込む毛彫(けぼり)、地金に穴を開けて奥行き感を出す透し彫りなど様々な技法があります。
    最近では、コストを抑えるためにプレス・電気鋳造(電鋳)・エッチング金具などの金具も多く使用されています。
    データをいただければ、家紋や社章などを彫ることも可能です。
    錺金具の仕上げも、金めっきで金を施す方法から漆を挿したり、くすべ・ふすべ、黒く光るニッケルめっきなど、様々な技法があり、これらを組み合わせて加飾します。木工品との相性も良く、様々な工芸品でポイントを演出します。
    INOUEでは、最適な技法・装飾方法を選択してご提案いたします。

  5. 彫刻

    木や石などに彫刻刀などを使って彫り、立体的な形を生み出す技法です。日本が木の文化であるため、伝統工芸では主に木工彫刻が発展しいます。素材はケヤキ、桧、杉、松、柘植、白檀などなど用途や目的によってさまざまな素材が使われます。

    INOUEでは、花鳥などの動植物の仏壇欄間から仏像など、それぞれ専門の木工彫刻師が得意とする形があり、多様なご要望にお応えします。図柄は吉祥柄(きっしょうがら=縁起の良い)などの伝統図柄をベースにしたオリジナル図柄も、ご希望の応じてご提案いたします。

  6. 塗装(カシュー・ウレタンなど)

    INOUEでは、伝統工芸の高度な天然漆本堅地をはじめ、同じ漆科のカシュー(和名:勾玉の木)から採れる天然樹脂のカシュー塗料や、合成樹脂のウレタン塗料まで、あらゆる種類の塗装方法を可能としています。
    サイズもコーヒーカップなどの小さなものから建材に使用する大きなものまで幅広く塗装可能です。
    仏壇工芸の要とも言える塗装の品質は、常に厳しい目をもって吟味しています。
    INOUEは、技術力を持った職人のネットワークを有し、あらゆる塗装のご要望にお応えします。

  7. ガラス

    ガラスは伝統工芸の世界では比較的新しい素材です。
    漆などを塗ることは、密着度の問題があり難しかったのですが、最近塗ることができる漆も開発されました。ガラス越しに裏側を見ることができる面白さもあります。
    ガラスにもさまざまな種類があり、仕入れも比較的容易ですが、割れる素材のため工芸品に取り入れる場合はその扱いには配慮が必要です。割れにくくするために抑える方法と小口には格段の配慮が必要です。また、高級品では万が一割れてしまっても修理できるように制作することを提案しています。

  8. 伝統工芸のデザイン・設計

    伝統工芸はある範囲ではとても高品質です。しかし、手作りであるため、その範囲には「条件」と「限界」があります。
    例えば、漆の品質が担保できない溝、ロクロで作れない形、誤差が生まれるので組み合わせできない形状など、その設計には工業製品とは異なる知識が必要です。
    INOUEでは、それぞれの伝統工芸の知識を活かした形状の調整を含め、それぞれの伝統工芸に造詣の深いデザイナーとのネットワークも持っていますので、必要に応じて共同で取り組んでおります。
    もちろん企画やデザイン段階のご相談も対応しております。